【本と印刷】高柳昇さん

石元泰博写真集『桂離宮』と高柳昇さん

出版:六耀社
装丁:太田徹也
印刷:東京印書館
製本:大口製本印刷

https://www.rikuyosha.co.jp/products/detail4257/

 紀伊國屋書店の美術書カタログ2014「ル・キノ美ジュ」に東京印書館という印刷会社のプリンティングディレクター・高柳昇さんが文章を寄せています。
私はこの人の名前をこの小冊子で初めて知りました。
 東京印書館という印刷会社は、当時平凡社の社長さんが(下中直人さんという方ですが)、社長を兼任されていることを知り、興味を抱きました。

 かつて石元泰博写真集『桂離宮』(六耀社)を製版したとき、石元さんのモノクロプリント作品を観た。そのときの感動は忘れられない。写真の隅々にまで行き届いた石元流のこだわり、構図の取り方、焼き付けの見事さ。それは正に、作品に凛とした厳しさとある種の凄味すら与えていた。個々の作品は明部の調子が飛ばずに、中間部の調子も豊かで、さらに暗部の調子も潰れていない。本当に素晴らしいモノクロプリント作品であった。

 同時に、この写真作品を写真集にすることの難しさに身の引き締まる思いでもあった。製版にあたりモノクロ写真の微妙な色味、階調をどのように表現するか。暗部(黒部)の濃度(黒の締り)をどのように印刷で再現するか。可能性のある製版方法をいく通りも考え抜いた末、最善の方法はトリプルトーン(墨版、グレイ版、硬調グレイ版)に色ニスと決定した。製版設計は墨版で全体の階調を出し、グレイ版で明部から中間色の階調不足を補い、硬調グレイ版で暗部(黒部)の濃度不足を補い、色ニス版で微妙な色味を付け足す。そんな4色による製版方法である。後日、石元さんとお会いした折、今回の桂離宮の出来が一番良いとの評価をいただき肩の荷が下りた思いであった。

紀伊國屋書店「ル・キノ美ジュ」2014

 写真集の印刷する方々にもにも、写真家と同じくらいの緊張感があるのだと、改めて知らされました。
写真家との信頼感、出版社との信頼感。黒子に徹している印刷会社の存在も出版においての大きな存在であることを私たち読者も忘れてはなりません。
 これからは、写真集や画集、図録を見るたびに奥付を確認しそうです。
 「印刷/株式会社東京印書館」「P.D./高栁昇」の本を集めたブックフェアとかどうでしょう。
 高柳さんの文章を読んだあと、2011年に見た高知県立美術館「石元泰博の眼─桂、伊勢」の図録の奥付に「印刷/株式会社東京印書館」「P.D./高栁昇」を発見して、何だか嬉しかったのを覚えています。

文章に登場する六曜社刊の『桂離宮』(2010年5月・1000部限定)は下記、六曜社のサイトで立ち読みできます。